「背中の翼でさ、こう、思いっきり風を起こしてさ! そうしたら、みんな飛んでっちゃうんだよ!」
頭の天使のわっかを、まるで犬の尾のように揺らしながら、そいつは目を輝かせて語った。
ばかみたいだ、と思う。小さな小さな小人の天使。ねえ、おまえ、魔王の城に捕らえられてんだよ。この状況わかってんの?
「それだけじゃないよ。ぼくはね、そのユニコーンに乗って、どこにだって行けるんだ。永遠に枯れない花畑にも、朝の来ない満点の星空にも!」
「いいから黙ったら。目をつけられたらおしまいだ。他のヤツみたいに、じっとしておいたほうがいい。──まあどうせ、ここにいる限り、遅かれ早かれ食われるんだけどな」
放っておいても良かったが、俺は忠告してやった。名前を聞いただけなのに、なんでここまで語れるんだ、こいつ。
ここは魔王の城、俺たちはみんな捕まっちまった魔王の食料。そこんとこ、この新入りはいまいちわかってないんだ、きっと。
その点、俺はもう諦めてる。どうせ死ぬんだ。実現しない夢なんて、見るだけ無駄だ。
「魔王の朝の日課、それはな、朝食を選び出すことだ。俺たちのなかから、一人な。目立ってたら、すぐに食われるぞ」
「だいじょうぶ、そうしたらぼく、魔法をかけるから。ぼくの呪文で、魔法が指先から乱射! 魔王なんて、いちころさ」
「……なら俺がおまえ差し出すよ。いちころでやっつけてくれるんだろうな」
そうだ、それがいい。魔王が入ってきたら、この小人を投げつけて、ハイドーゾ、っていってやる。そうすれば、少なくともうるさくなくなる。
「ねえ、キミ、どうしてそう冷めてるのさ」
そいつは、急に悲しそうな顔をした。
俺が答えないのをいいことに、さらに語り出す。
「ねえ、もこもこ、ピンクの雲、乗ったことある? ふわふわ浮かんでね、すっごく気持ちいいよ。それでね、そのまま、ぺガサスの群れに突っ込むんだ。ペガサスなんて、みんな大慌てだよ! その混乱を利用して、雲からペガサスに飛び移るんだ。ペガサスは、何にも知らずに、ぼくを乗せてお城に行くのさ。ツタの絡まる巨大な城は、何者をも寄せ付けまいってしてるけど、そんなのへっちゃらさ。ぼくの乗るペガサスはね、いつの間にかドラゴンに変身するんだよ。小さなドラゴン、大きく羽ばたいて、火を吹くのを待ってるのさ」
こいつ、何いってるんだ?
まるで歌うように、小さな天使は言葉を紡ぐ。黙るつもりなんてないらしい。ちょっと頭がおかしいのかもしれない。
「──おっと、忘れてた」
そいつは、急に両手を打ち鳴らした。腰に引っかけてあったカバンから、小さな卵を取り出す。
──カバン? なんで取り上げられてないんだ、こいつ。
「ごめんごめん、もう出て来ていいよ」
卵にヒビが入る。
さすがに俺は、声も出なかった。卵から孵ったのは、なんと不死鳥だったんだ。不死鳥だぜ、不死鳥。そんなの、伝説の生き物だ。
「勇者様、勇者様、大変です、魔王が人さらいをしているとの情報が!」
甲高い声で、小さな不死鳥がわめく。見た目カッコイイのに、インコみたいな声だ。
でも……不死鳥の羽を引っこ抜いたら、高く売れるかな。まあ、それどころじゃねーけど。
「ぼく、いま一応天使なんだけどな。それとね、エッグ、その報告はもう聞いたよ。だからここにいるんじゃない」
小さな天使が肩をすくめる。こいつ、何いってるんだ?
けど、考えてるヒマなんかなかった。
扉の向こうから、大きな大きな魔王が、ご丁寧にエプロンを首から下げて、どすんどすんとやってきた。
ああ、朝食が始まるんだ。
今日もこのなかから一人、食われるんだ。
「……さて……だれにするか。ふむ。そうだな──今朝は、貴様にしよう」
──!
俺は息を飲んだ。
魔王の太い指が指したのは、間違いない、俺だったんだ。
「料理人、あの小僧を料理しろ」
魔王の言葉に、うしろからコック帽のカメレオンみたいなやつが出てくる。
そいつは、両手を広げて呪文を叫んだ。召喚して出てきたのは、目眩がするぐらいに大きな包丁と、俺ひとりじゃもてあますような巨大な釜。
「かしこまりましてございます」
カメレオンが、包丁を手に近づいてくる。
ああ、俺、死んじゃうんだ──
どうせ、どうせ死ぬなら、どうかその一振りで……
「や、やだよ、やめろよ……」
意識とは裏腹に、俺はそんなことを口走っていた。
どうしようどうしよう、やっぱり死にたくない、食べられたくねえよ!
「だいじょうぶだよ、そんな顔しないでも」
すぐ隣で、のんきな小人の声。俺はカッとなった。なんでこいつ、こんな近くにいるんだ!
「逃げろッ、逃げるんだッ、捕まったらおまえだって食べられんだぞ!」
「だいじょうぶだっていってるのに」
瞬間、俺には何が起こったのかわからなかった。
目の前が炎でいっぱいになる。俺、燃やされたのか? いや、でも、俺は熱くない。
煙の向こう側で、カメレオンと魔王が炎に包まれている。断末魔。それすら、別の世界の出来事みたいだ。
見ると、いつの間にか、小人の傍らには小さなドラゴンがいた。
はっと、俺は思い出す。
小さなドラゴンが、火を吹くのを待ってるとかなんとか──
──もしかして、こいつのいったこと、ぜんぶ本当なのか?
「トドメ!」
そいつが叫ぶと、指先から魔法が乱射される。
俺はバカみたいに大口を開けて、見ていることしかできない。
こいつ、本当に、魔王倒しちまいやがった。
「さ、ぼくのお仕事はこれでおしまい。もう帰らなきゃ。こういうとき、なんていったらかっこいかな。あばよ、とか?」
そういって、歯を見せて笑う。
俺がなにかをいうよりも早く、そいつは小さなドラゴンにまたがった。ドラゴンは、大きく羽ばたく。そのうしろを、不死鳥が追いかける。
帰還する道中、彼らはまた雲に乗るんだろうか……思わず、そんなことを考えた。ペガサスの群に突っ込んで、それから、ユニコーンの翼で風を起こして?
なんだかおかしくなってきた。
笑い出す俺を、他の食料候補たちが、きょとんと見ている。けど、そのうちに、みんなして笑い出した。
これで、帰れるんだ。
俺たちの日常に。
もしかしたら、魔王に捕まったことも、小さな天使のこともぜんぶ、たちの悪い夢だったのだろうか。俺の、空想だったのだろうか。
どっちでもいい。
これが、空想世界での現実だったとしても。俺にとっては実際に起こって、そして確かに、終わったんだ。
ツタの絡まる巨大な城を後にして、俺は空を見上げた。
白い雲の向こう側に、ピンクの雲が浮かんでる。
ありがとな、小さな天使。
以上、
創作・後ろにくっつけようぜ的なバトン《ファンタジー編》
でした。愁真さま、文樹妃さまに回していただきました。
えーと、もりもりこ的なバトンなわけですが、それでストーリー作ってみましたよ。
本当は、
以下の言葉の後ろに言葉をくっつけていって下さい。
短文にするもよし、詩のようにするもよし、セリフにするもよしです。
□背中の翼で
□頭の天使のわっかを
□ユニコーンに乗って、
□魔王の朝の日課、それは
□魔法が指先から乱射、
□小人を投げつけて
□もこもこ、ピンクの雲、
□ぺガサスの群れに
□ツタの絡まる巨大な城は、
□小さなドラゴン、大きく羽ばたいて
□卵から孵ったのは、なんと
□勇者様、勇者様、大変です、魔王が
□不死鳥の羽を引っこ抜いたら
□召喚して出てきたのは、
□どうかその一振りで
□どうしようどうしよう、
□逃げろッ、逃げるんだッ、捕まったら
□あばよ、
□帰還する道中、彼らは
□空想世界での現実、それは
というバトンでしたとさ!
相互リンクの皆々様方、ぜひやってみてくださいませ><
バトンお持ち帰り:
http://www.blogri.jp/baton/?id=46607
ブログリバトン置き場:
http://www.blogri.jp/baton/
一つのファンタジー物語になっちゃってます。
短編かと思っちまいました。感動。
やっぱり、すごいストリーテラーなんだなあと感心しまくりです。
これ・・・蛙ができるのか・・・?
ちょっと考えてから・・・にしたいので取り置きでお願いします!
しかもものすごく普通に読んでました(汗)このちみっちゃい子、名前はなんて言うんだろうな……
ううっ、できるだろうか?!
今すぐにとはいきませんが、バトン、いただいて帰ります!
すごい、すごいですよ光太朗さま!
こんな風にできるとは、思いもしませんでした。
普通にアホにバトンこなした私は、なんだか恥ずかしいです。(笑)
やっぱり光太朗さまは、すごい小説書きさんですね!
だって、普通に読み応えある、ファンタジーSSでしたよ。面白かったです! 尊敬!
やっちまいました(好き放題に。
いや、そんなすごいってほどじゃ……だいぶムリヤリですんません;; おおお、でもなんかベタぼめされてるっ!? ストーリーテラーってかっこいい響きっっ><
あれですよね、この手のはやったもん勝ちな感もありますし、もちろんスルーもOKですよ>< いやもちろん、青蛙さまがどう料理されるのか、がっつり興味が……いやプレッシャーかける気はないんですけども!!
>早村友裕さま
ちみっちゃいって、かわいい! 「ちみっちゃい」……いいですね。新語彙登録です。カシャーン(登録音。
長いのに読んでいただいてありがとうございます。投稿したものの、これだれも読まないんじゃ、とか思ってたんです;
お、やってくださるのですね! うわーい、楽しみにしてます><
>文樹妃さま
わはー、そんな恐れ多い! ちゃんと読むとムリヤリ感てんこもりですよ(だから読み返しちゃダメですよ!/笑 でもなんかもー、そう手放しで褒められるとあれですね、結婚してくださ(アレ?
おもしろいのは、愁真さまと文樹妃さまでやり尽くし……というか自分ではそれ以上思いつかなかったので、こんな感じになりました。なんかもう光栄です! ありがたいです><
ぅああ、すごいですね! バトンでこんなSSを書けるなんて!
さすが光太朗様です^^
バトン、回してくださってありがとう御座いますっ。
しっかり考えてやりたいので、しばらくかかるかと思いますが、面白そうですっ。
そして、前回もありがとうございました!
早速消化いたしました、やや強行突破で(笑
面白いですよね、あれ。人がやっているのを見ると楽しいですーうふふふh(怖いから
バトン下さったのにコメント残すのこんなに遅れて申し訳ありません><
それでは、失礼します~。
前回のバトンも、ありがとうございました。拝見して、コメント残そうとした矢先にちょこっと事件が起きてそのままでしたが、せっかくなので残しにいきます(笑
バトンのやりとりっていいですねえ。最近はちょこちょことバトンをいただいて、なんだかブログ書くのが楽しいです。もちろん、読むのはもっと最高>< バトン万歳!
光太朗様がいま、すっごい遠い!
可愛いファンタジーの脈絡のない言葉を使って文章をつくる難しさに息も絶え絶えでした。
ピンクのもこもこ・・・でダークな世界を書くのは蛙には無理でした。
でも大変勉強になりました。
また、創作系のバトンがあったら嫌がらず(子どもかよっ)やってみようと思いました!先生!
ってことで・・・体から変な液体が出ている蛙でした。
バトンは私も回してもらってる側ですが、おもしろそうなの発掘するのもありかもですね。また何かあったらぜひにっ><
なんかレベル高けーなーとか思っていたらそういうことですか(笑)
ミクシィじゃ下らないバトンしかやったこと無いんで、最初分からなかったです。こうして、創作家としての差がついていくのか……(遠い目)
またお邪魔します。
きっかけを下さったのでコメントを残していこうかと~♪
とゆーか、やはりレベルが違いすぎます!
こういう雰囲気の物は一生書けないんだろうなぁと思います;
キリも不肖ながらブログ小説などをやっておりますのでこちらのバトンを挑戦いたしましたw
一応「小説家になろう」にも投稿しておりますよ♪
・・・自己紹介になってしまいましたが、また顔を出したいと思います~でわでわ
お世話になっております。蜻蛉です。流浪の旅を続けていたらこんなところに拠点を構えていたとは……なかなかやりまs(ry
しかしこれは物凄い難易度のあるバトンじゃないですか……少なくとも俺には出来ないっすねw
これを数十分で完成させられたのなら、もうなんか結構遠い人だったんだと痛感させられますね。やっぱこういうところで経験がものを言うのか~~すげぇなぁ……。
ちょこちょこ見に来ますんで、今後ともどうぞよろしくです。
というわけで恐れ多いながらもコメレスをば><
>俊衛門さま
なんてことでしょう! いらっしゃいませ! さっそく玉露を用意しましたのでまお茶でも……ああしまった、お茶は電波の壁を越えられないっ><
コメントとても嬉しいです、ありがとうございます。ぜひやってくださいこのバトン(とかいってみる。 いえ、あの、よろしければで……。
実はサイトにちょこちょこお邪魔してたりするんです。またお邪魔します><
あ、mixi内での私の赤裸々私生活はシーッでお願いします>< たいしたことないけど;
>キリさま
不躾なコメントだったにもかかわらず、ありがとうございます! もうキリさまの姿は私の中では卵王子(声は八尾一樹)…いや冗談です。
レベルとか、そんなことは全然ないですが、でもありがとうございます>< キリさまの小説も気になるところですね、これは! またブログにもお邪魔致します><
>蜻蛉さま
うわあ、うわああ、お世話になっております>< いま赤福用意しましたのでお菓子でも……ああ伊勢の餅は電波の壁を越えられないっ><
ええと完成は数十分ですが、そんないっていただけるような……おっと読み返しちゃだめ、だめですよ! イロイロ見つかってしまうので(笑
やー、光栄です。嬉しいです。いまから書き直して、回す方の名前に蜻蛉さまって書いていいですかね。いや、ここで回しても回したことになりますかね。よろしければ、ぜひ><
こちらこそ、今後もストーカーしますので(笑)、どうぞよろしくです…!!!