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今日も今日とて光太朗
自作小説についてなどを、つれづれに。
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2008-04-26 [Sat]


 ぼくはシチュー。
 とってもおいしい、ホワイトシチュー。
 そんじょそこらのシチューとは、わけがちがう。ママさんが、小麦粉とバターと牛乳で、一から作ってくれたんだもの。
 ママさんは、ちいさなちいさな赤ちゃんを背中におんぶして、ずっとずっと長い間、ぼくのそばにいてくれた。
 知ってる?
 シチューのもとになる、ホワイトソース。ちょっとでも気を抜くと、ダマになったり焦げたりするんだ。
 だからママさんは、ずっとぼくをかき混ぜていてくれた。
 おかげでぼくは、とろとろ、とろとろ、真っ白なホワイトシチュー。
 赤ちゃんも、ぼくを食べてくれるのかな?
 どんな顔して、食べてくれるのかな?

「じょうずにできた」

 ママさんがほほえんでる。
 ぼくもうれしい。
 ねえ、もうそろそろ、食べごろだよ。はやく食べて、もっとすてきな笑顔をちょうだい。
 ぼくはそれが、なによりうれしいんだ。
 そのために、生まれてきたんだ。

「パパの好きなシチュー、じょうずにできたよ。今夜はパパはやいっていってたから、みんなで食べようね。パパ、喜んでくれるといいね」

 赤ちゃんは背中で眠っていたけど、ママさんはやさしい声でそういった。
 ぼくは、なんだかわくわくしてきた。
 ママさんと、パパさんと、赤ちゃんと。
 みんなで、笑って、食卓を囲んで。
 ぼくは、そんなしあわせな空気のなかで、食べてもらえるんだ。


 ママのポケットで、ぶるぶるとなにかが震えた。
 ママさんが、背中の赤ちゃんを気にしながら、小さな声でハイという。

「……え? そうなの? ううん、わかった。帰り、気をつけてね」

 とても沈んだ声。
 さっきのママさんとは、ちがうひとみたい。

「パパ、遅くなるって。じゃあ、シチューは、明日の朝にしようね」

 ちょっと泣きそうな声だった。
 ぼくも悲しくなってしまう。
 ママさん、いっしょうけんめい作ってくれたのに。楽しみにしてたのに。
 ねえ、でも、だいじょうぶ。
 朝までじっくりねんねしたほうが、ぼく、きっとおいしくなるよ。
 いまよりずっとおいしくなるよ。
 ねえ、ママさん、だからそんな顔しないで。
 ぼく、自信があるんだ。
 ぜったいおいしくなってみせるから。
 
 ママさんが、ぼくにふたをする。
 ようし、がんばるぞ。
 まだ寝るにははやかったけど、ぼくはおいしくなるために、はやくはやくと目を閉じた。


 その夜、ぼくは夢を見た。
 ママさんと、パパさんと、赤ちゃんが、おいしいってぼくを食べてくれる夢。
 いっぱいの笑顔に包まれて、いっぱいの幸せに満たされて、ぼくはとろけてしまいそうだった。
 ぼく、きっとおいしいよ。
 だって、ママさんの愛がね、いっぱいいっぱい入っているんだ。


 朝になって、ふたが開けられた。
 ぼくをさいしょにのぞきこんだのは、パパさんだった。
 つかれた顔のパパさん。ママさんはどうしたんだろう?
 ああ、赤ちゃんの泣き声。そっか、赤ちゃんが泣いてるんだね。
 パパさんが、コンロのスイッチを入れる。
 朝一番で、ぼくのからだに火がとおる。
 
  ──? ねえ、待って。
 待って、待ってパパさん、どこに行くの?
 だめだよ、だめだよ、熱いよ。
 熱いよ、ねえ、もっと火を小さくして。ねえ、ちゃんとかき混ぜて。
 ああ、ああ、ぼくの真っ白なからだが、茶色くなっていく。
 だめ、だめ、どんどん黒くなっていく。

 赤ちゃんが泣いてる。
 赤ちゃんをなだめる、ママさんの声が聞こえる。
 遠くから、シャワーの音。
 
 だれもぼくに気づいてくれない。
 だれもこっちに来てくれない。

 だめだ、もう、だめだよ。
 もう、どうにも、ならないよ。


 ぼくは、
 ぼくはね、
 おいしいっていわれたかった。
 笑顔を見せて欲しかった。
 食べて、欲しかったよ。


 ぼくはそれ以上、なにも考えられなくなった。
 遠のく意識の片隅で、ママさんの悲鳴が聞こえたような気がした。







以上!
シチューって焦げますよね。
私は深夜に何を書いているんだ。寝よう……。

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……(涙)
 ……、か、悲しい、悲しすぎる……! なんて言うか、そのまま暖かな家庭が続いてほしかったのに……! こういう小説を読むたびに、絶対こんな男にはならないでおこう、と考えてしまいます。

 む~、いたいけなシチューくんに語らせるおかげで、より一層くっきりと、悲惨な状況が頭に思い描かれます。やっぱり光太朗さま、うまいですね~。尊敬、です。では!
針井 龍郎 URL 2008/04/26(Sat)02:36:55 編集
>針井さま
うわーい、読んでもらえた>< コメントありがとうございます!
長時間かかる料理のときって、その子に愛着わくんです、私の場合。以前うっかり焦がしちゃって、「悲しかったよね、食べて欲しかったよね」と私も泣けて泣けて(変人
その想いを文にしてみたんですが、無駄に切ない感じになりました(笑

絶対こんな男にはならないでおこう、の決意が素敵です!! 覚えておいてください、ヤツは焦げます!(常識か;
光太朗 URL 2008/04/27(Sun)14:38:12 編集
そうです!奴は!!!
奴は焦げます。かなりの確立で暖め直しをするときが一番やばいです。
 こどもが小さくて・・・がんばっているママはこんな小さなことでもがっくりくるんです。
 パパも会社で疲れ切っているんですがね。
お互いがもっと歩み寄れたら・・・自分に余裕がないときは大変です。
 しかし、奴は・・・焦げます!!!
青蛙 2008/04/27(Sun)15:32:14 編集
>青蛙さま
そうですよね! もしや経験者ですか!? あれはですね、その後のナベがまたやっかいなんですよね(この話題でいくらでも語れそう;

近所で双子ちゃんをベビーカーに乗せて歩くママさんをよく見かけるんですが、心から尊敬です。大変なんだろうな、と。シチューなんて焦がしてられないでしょうね…。
ママさんエライ!! 世の中のママさんにこの小説をささげます!!(もらってどうするのか;
光太朗 URL 2008/04/27(Sun)23:33:35 編集
無題
これねーwww。
真ん中ぐらいで引き上げておけば絵本にでもなっただろうけどもwww。
まさかオチがうさ晴らしとなっているとは、想像の限界を超えてますよね。
ある意味。

しかしまぁ、よくぞこんなことを長々と書いて――。
僕は多分恥ずかしくて5行ぐらいで消しちゃうと思います。

これも才能なんだろうなー。
みお。 2008/04/30(Wed)13:42:46 編集
>みおさま
おー、読んでいただいたんですね、ありがとうございます!
いやいや憂さ晴らしよりむしろ、シチューを焦がした懺悔ね思いが込められて…いるよーないないよーな(笑
実際ヤツは焦げるので、要注意ですよ><
光太朗 2008/05/01(Thu)08:55:23 編集
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